2025年9月17日、株式会社メディックス主催のセミナー「ゼロから始める!データ統合&ダッシュボード構築 ―前編:準備と設計のポイント―」が開催されました。
昨今、デジタルマーケティング領域において、広告データ、Webサイトの行動データ(GA4)、企業の基幹データ(CRM等)が分断されて管理されているケースが多く見られます。本セミナーでは、これらのデータを統合する意義や、構築時に失敗しないための設計ポイント、さらに最新の生成AIを活用した分析手法について、解説しました。
目次
登壇者紹介

株式会社メディックス
マーケティングデザインユニット
データエンジニア
松尾 一平
Google Analyticsの設計・導入歴 10年以上。GA4のローデータをBigQueryで集計し、BIツールを活用したダッシュボード構築を得意としている。近年はデータエンジニアとしてAI活用にも注力している。
なぜ今、「データ統合」が必要なのか
本セミナーにおける「データ統合」とは、バラバラに存在している複数のデータソース(広告、GA4、基幹システムなど)を一つのデータウェアハウス(DWH)に集約し、連携キーを用いて紐付けることで横断的な分析を可能にすることを指します。
データ統合を行うことで得られる主なメリットとして以下の3点が挙げられます。
- 一気通貫のダッシュボード構築:Web上のコンバージョン(CV)だけでなく、その後の「成約」まで紐付けることで、ビジネス成果に基づいた真のROASやCPAを可視化できます。
- 機械学習モデルの構築:統合データを活用することで、LTV予測など、より強力で実践的な予測モデルの構築が可能になります。
- 生成AIの活用:統合されたデータを用いることで、AIによる高度な分析や壁打ちが可能になります。
失敗しないための「準備と設計」3つの重要ポイント
データ統合は、一度構築を始めると後からの変更が困難であるため、初期段階の計画性が重要です。設計時に意識すべきポイントとして以下の3つを解説します。
- 将来を見据えたデータの洗い出し
ETLツール(データ転送ツール)を選定する際、現在必要なデータだけでなく、将来的に統合する可能性のあるデータも考慮する必要があります。将来の拡張に対応していないツールを選んでしまうと、後々ツールの切り替えが発生するリスクがあるためです。 - 共通キーの設計とGA4の実装
異なるデータを統合するには「共通キー」が不可欠です。通常、広告データと基幹データは直接紐付かないため、GA4を「ハブ」として連携させます。
• 広告データ × GA4:UTMパラメータ(utm_sourceなど)を利用します。GA4では自動計測されるため特別な実装は不要です。
• GA4 × 基幹データ:問い合わせIDなどを共通キーとします。このIDはGA4の標準機能では計測されないため、dataLayer等を用いてイベントパラメータとして計測する実装が必要となります。 - 非推奨な運用フローの回避
以下の運用は、保守性や信頼性の観点から避けるべき運用であると解説されました。
• 手動工程への依存:CSVのダウンロード・アップロードなどの手動作業は、更新漏れや人為的ミス、属人化を招きやすいため推奨されません。
• 独自プログラムによるAPI連携:ETLツールを使わず独自に開発すると、媒体側のAPI仕様変更のたびに改修が必要となり、維持管理コストが増大します。
推奨されるツール選定の基準とアーキテクチャ
データ統合基盤の構成として、GA4、広告データ、基幹データを「Google BigQuery(DWH)」に集約し、ETLツールで転送を自動化、最終的に「Looker Studio」などのBIツールで可視化するパターンが一般的です。
- データウェアハウス(DWH):BigQuery
GA4にはBigQueryへの標準エクスポート機能(ローデータ連携)が備わっているため、DWHとしてはBigQueryをお勧めします。 - ETLツール:TROCCO / Databeat
広告や基幹データをDWHへ送る際は、TROCCOやDatabeatといった国内ETLツールの活用が推奨されます。広告媒体中心もしくは、SFA/CRMなど幅広い連携が必要なのかといった要件やコストに応じた選定が重要です。 - BIツール:Looker Studio
弊社がご支援する企業様ではLooker Studioが多く利用されています。無料版でも高機能化しており、有料のBIツールに遜色ない機能が備わってきています。より高度なガバナンスやAI機能が必要な場合はLooker Studio ProやLooker、Microsoft製品との連携重視ならPower BIなどが選択肢となります。
統合データ×生成AIの活用最前線
最後に、統合したデータを生成AIに連携させる最新の活用事例をご紹介します。
チャットによるデータ分析
「Claude Desktop」と「MCP(Model Context Protocol)」を組み合わせたり、「Looker Studio Pro」の会話分析機能(Gemini搭載)を利用したりすることで、自然言語でデータ分析が可能になります。 デモでは、AIに対して「Looker Studio風のダッシュボードを作って」と指示するだけでグラフが生成されたり、「先月と今月のデータを比較して考察して」と依頼することで分析コメントが出力されたりする様子をご紹介しました。
AI活用の注意点と対策
生成AIは計算自体が得意ではないため、複雑な集計をさせると不正確な数字を返すことがあります。これに対し、PythonなどのプログラムをAIに実行させて計算処理を行う機能(Claude DesktopやLooker Studio Proの機能など)を利用することで、正確な計算結果を得ることが可能になります。
また、社内独自のデータ定義(例:「成約率」の定義など)をAIは理解できないため、「Dataplex Universal Catalog」などでデータ定義書(メタデータ)を整備し、AIに読み込ませることが重要です。これによりAIの回答精度が向上し、また社内のデータガバナンス強化にも繋がります。