AmazonDSPは、Amazonが保有する膨大な購買データを活用し、Amazon内外で高精度なターゲティングでの広告配信を実現する、広告プラットフォームです。
自社商品をAmazonで販売していない企業でも導入でき、自社ECサイトや実店舗への送客にも応用できます。
本記事では、AmazonDSPの配信面や特長、Amazonスポンサー広告との違いなどを整理しながら、始め方や導入時のポイントなどを具体的に解説します。
目次
AmazonDSPとは
AmazonDSPは、Amazonが提供する広告配信プラットフォーム(DSP)です。
AmazonDSPを利用すると、Amazonのサイト内とAmazon外の配信面に向けて一括で広告を配信できます。
AmazonDSPは、Amazonに出品していなくても利用可能で、Amazonへの集客だけでなく自社のWebサイトや実店舗など外部への集客にも活用することが可能です。
そもそもDSPとは
DSPとは「デマンド・サイド・プラットフォーム:Demand Side Platform」の略で、広告枠の買い付け・配信を自動化できる広告主向けのプラットフォームのことです。
従来の広告配信では、広告を掲載する媒体ごとに掲載枠を個別交渉して購入する必要がありましたが、DSPを利用することで複数の広告枠を一元的に管理・入札できます。
DSPでは「リアルタイム入札」と呼ばれる方式で自動的に入札が行われ、予算・ターゲットに応じた最適な広告枠・ターゲットが自動的に選定されて、広告が配信されます。
対応する広告クリエイティブの幅が広く、ディスプレイ広告・動画広告など様々な形式で一括配信することが可能です。
AmazonDSPにも同様の機能があり、Amazon内外の配信面に対して独自のターゲティングを利用して広告を配信できます。
▼関連記事
Amazonスポンサー広告との違い
Amazonが提供する広告サービスとして「Amazonスポンサー広告」も知られていますが、AmazonDSPとはどのような違いがあるのでしょうか。
基本的な違いは「掲載先」と「主な用途」の2点で、簡単にまとめると次のとおりです。
Amazonスポンサー広告 | AmazonDSP | |
掲載先 | 主にAmazon内で運営・管理される広告枠 | Amazon内外の幅広い広告枠 |
掲載対象 | Amazon出品者 | Amazon出品者/非出品者 |
主な用途 | Amazon内に出品している商品の集客・売上の最大化 | 自社社サイトへの集客・売上の最大化 |
Amazonスポンサー広告は、Amazonの検索結果や商品詳細ページなど、主に「Amazon内で運営・管理される広告枠」に掲載するためのサービスですが、AmazonDSPは外部サイトにも広く配信できます。
またAmazonスポンサー広告は基本的に「Amazonに出品している商品」を宣伝する用途で利用されますが、AmazonDSPはAmazonに出品していない企業でも利用でき、自社サイトへの集客など幅広い用途で活用されています。
例えば、Amazon外の配信面でAmazon外のサイトへ誘導する広告を配信する、といった、Amazon外部で完結する使い方も可能です。
▼関連記事
AmazonDSPのメリット・強み
他の広告サービスと比較したAmazonDSPのメリット・強みとして、次の3点が挙げられます。
・Amazonに出品していなくても利用できる
・Amazonのユーザデータを利用してAmazon内外へ配信できる
・Amazonスポンサー広告との相乗効果が期待できる
それぞれ詳しく解説します。
Amazonに出品していなくても利用できる
Amazonスポンサー広告と比較したAmazonDSPのメリットは、Amazonに出品していなくても利用できることです。
Amazonのサイト内やAmazonと提携している数多くの外部Webサイトやアプリに広告を配信でき、豊富なユーザ層にリーチできます。
EC分野に限らず、自社サイトへの集客やブランドの認知度向上など、幅広い用途で活用できます。
Amazonのユーザデータを利用してAmazon内外へ配信できる
他の広告サービスと比較したAmazonDSPのメリットは、ターゲティングに「Amazonの購買・閲覧データ」を活用できることです。
他の広告サービスでも、データに基づいたターゲティングは可能ですが、AmazonDSPで活用できるデータには、Amazonユーザの購買履歴・閲覧履歴など「実際の購買に直結する膨大な情報」が含まれています。そのため、「コンバージョンに至りやすいユーザ」に向けたピンポイントな訴求がしやすいことがAmazonDSPの強みです。
購買履歴によるターゲティングを行うには通常、自社のECサイトなどでデータを収集する必要がありますが、AmazonDSPならそのようなデータを1から集めなくても、すでに蓄積されたAmazonの膨大なユーザデータを活用できます。
Amazonに出品していなくても、そういったAmazon独自のユーザデータをもとにした独自のターゲティングを利用でき、Amazon内外へ広告を配信することが可能です。
Amazonスポンサー広告との相乗効果が期待できる
AmazonDSPは、Amazonスポンサー広告と併用することで相乗効果が期待できます。
例えば、AmazonDSPでブランド・商品を認知させて興味を持たせ、ユーザがAmazonで検索するように促し、検索時にスポンサー広告を目にして購買につながるといった流れを構築できます。
また、Amazonスポンサー広告を見て商品詳細ページを見たものの購入に至らず「離脱したユーザ」に対して、外部サイトで広告を表示させて購入を後押しするといったリターゲティング施策も可能です。
このように、Amazonスポンサー広告を併用した施策を検討できる点が、他の広告サービスと異なるAmazonDSPの強みといえます。
AmazonDSPの配信面
AmazonDSPには、Amazon内に広告を表示する「オンサイト」の配信面と、Amazon外の連携サイトなどに表示する「オフサイト」の配信面があります。
どの配信面にも、Amazonへ誘導する広告(インリンク)と、Amazon外へ誘導する広告(アウトリンク)を配信することが可能です。
オンサイト・オフサイトそれぞれの配信面の詳細を解説します。
オンサイトの配信面
オンサイト(Amazon内)の主な配信面には、次の7種類があります。
1.トップページ
2.検索結果ページ
3.商品詳細ページ
4.タイムセールページ
5.レビュー一覧ページ
6.決済完了ページ
7.オーダーページ
それぞれAmazon内でどのように配置されるのか、その位置と名称を紹介します。
1.トップページ
Amazonのトップページに配信される広告には、次の7種類の配置があります。
デスクトップ・タブレット | 1. レクタングルA 2. BTFカード 3. ビルボード 4. レクタングルB |
モバイル | 5. シングル 6. レクタングル 7. ダブル |
2.検索結果ページ
Amazonで商品名などを検索した際に表示される検索結果ページには、次の3種類の配置があります。
デスクトップ・タブレット | 1. スカイスクレーパー 2. スーパーバナー |
モバイル | 3. ダブル |
3.商品詳細ページ
Amazonで具体的な商品をクリックした際に表示される商品詳細ページには、次の10種類の配置があります。
デスクトップ・タブレット | 1. ILM 2. HQP 3. PinPoint 4. ビルボード 5. レクタングル 6. スーパーバナー |
モバイル | 7. ILM 8. HQP 9. ダブル 10. アンコール |
4.タイムセールページ
Amazonのタイムセールのページには、次の2つの配置があります。
デスクトップ・タブレット | 1. スーパーバナー |
モバイル | 2. シングル |
5.レビュー一覧ページ
レビューの「星5つ」「星4つ」などのリンクをクリックすると表示されるAmazonの「レビュー一覧ページ」には、デスクトップ・タブレットのみで次の配置があります。
デスクトップ・タブレット | 1. レクタングル |
6.決済完了ページ
Amazonで商品を購入した後に表示される決済完了ページには、次の3つの配置があります。
デスクトップ・タブレット | 1. カンバス 2. レクタングル |
モバイル | 3. シングル |
7.オーダーページ
Amazonの注文履歴で、購入済みの商品をクリックすると表示されるオーダーページには、モバイルのみ次の配置があります。
モバイル | 1. ダブル |
オフサイトの配信面
オフサイトの配信面には、Amazonと提携している外部サイトやアプリが含まれています。
具体的には、広告を掲載したいメディア向けのプラットフォーム「Amazon Publisher Services(APS)」と連携している、多数のサイト・アプリの配信面です。
また「Google Ad Exchange」など外部の提携プラットフォームに登録しているサイト・アプリにも配信できます。
AmazonDSPで利用できる広告フォーマット
AmazonDSPで利用できる主な広告フォーマットは次の3種類です。
・静止画広告
・eコマース広告
・動画広告
それぞれの特長を詳しく見ていきましょう。
静止画広告
静止画広告は、1枚の画像のみで構成される横長・縦長の広告です。
配置面に合わせて様々なサイズで入稿する必要があります。
eコマース広告
eコマース広告は、Amazon出品者のみが利用できる広告で、出品している商品の画像や価格などのデータを元に配信する広告です。
画像・価格・レビューなどの要素が、配信先に合うよう自動的に配置されるので、広告用のバナー画像を作成せず少ない手間で配信できます。
広告には「カートに入れる」ボタンの表示も可能で、購入までのステップを減らして効率的にコンバージョンを狙えます。
動画広告
Twitchなどで配信されている動画コンテンツの再生中・再生前後などに表示される広告です。
ABEMA・TverなどAmazonDSPと連携された外部の動画サイトにも配信できます。
AmazonDSPで利用できるターゲティング
AmazonDSPでは様々なターゲティング設定が可能です。
特にAmazonDSP独自の次の3つのターゲティングについては、機能を十分に把握しておきましょう。
・Amazon閲覧・購買データ
・商品ターゲティング(ASINリターゲティング)
・コンテキストターゲティング
それぞれ詳しく解説します。
Amazon閲覧・購買データ
Amazonでの閲覧・購買履歴のデータを使ってユーザの「ライフスタイル」や「興味関心」を推測するターゲティングです。
例えば「スポーツファン」「旅行好き」「ゲーマー」など、ユーザのライフスタイルをAmazonの閲覧・購買履歴から予測してターゲティングを行います。
「カメラ」「健康食品」「本」など商品ジャンルを指定して、そのジャンルを直近で閲覧しているなど「興味が高まっているユーザ」(ホットカスタマー)のターゲティングも可能です。
商品ターゲティング(ASINリターゲティング)
特定の商品を指定するターゲティングです。指定した商品、もしくは関連する類似商品の商品詳細ページや、関連する検索結果のページをターゲットとして広告を配信します。
Amazonの商品ごとの識別番号であるASIN(Amazon Standard Identification Number)を指定するため「ASINリターゲティング」とも呼ばれます。
例えば、自社の商品を閲覧した後に購入に至らなかった離脱ユーザをターゲットとする場合や、自社の商品を閲覧したユーザを除外して新規ユーザをターゲットとしたい場合などに適したターゲティングです。
また「競合商品を閲覧するユーザ」に対して広告を表示するといった使い方もできます。
コンテキストターゲティング
ユーザの過去の閲覧履歴ではなく、現在のリアルタイムの閲覧履歴に基づくターゲティングです。
過去の行動履歴だけをもとにしたターゲティングでは、「以前は興味を持っていたけど、今は興味はない」といったユーザにも広告が配信されてしまう可能性があります。
コンテキストターゲティングを使うことで、ユーザが特定の商品やカテゴリに興味を持ってAmazonを閲覧しているその瞬間に、リアルタイムでリーチすることが可能です。
AmazonDSPの料金・課金形式
AmazonDSPの課金形式は、広告が1,000回表示されるごとに課金される「インプレッション課金」です。
AmazonDSPにはいくつかの出稿方法があり、それぞれ最低出稿金額が異なります。
特に、代理店経由での最低出稿金額は代理店によっても異なるため、詳しい料金については問い合わせて確認しましょう。
AmazonDSPの出稿方法
AmazonDSPの出稿方法は大きく分けて次の3種類です。
・直接契約のセルフサービスでの出稿
・直接契約のマネージドサービスでの出稿
・代理店経由での出稿
「セルフサービス」は自社で運用を行う出稿方法で、社内でリソースが確保できる場合は自社内で運用を完結できます。
しかし、専門知識が求められることも多いので、広告運用の知見が必要であることは念頭に置いておきましょう。
「マネージドサービス」もしくは「代理店経由」の場合は、媒体に詳しい担当者と相談しながら進めていくため、広告運用のノウハウがない企業でも効果的な運用が可能です。
社内のリソースや予算感に応じて選びましょう。
AmazonDSPを利用した広告の事例
AmazonDSPを効果的に使用して成功した実際の企業の事例を見ていきましょう。
Amazon公式サイトに載っている事例から、3社をピックアップして紹介します。
Kenmore(ケンモア)
米国の家電メーカーKenmoreでは、Amazonスポンサー広告と、AmazonDSPと組み合わせて運用することで高い成果を挙げています。
AmazonDSPと並行して、Amazonに出品している商品を目立たせる「スポンサープロダクト広告」と、Amazon上で自社のブランド認知度を高める「スポンサーブランド広告」を活用しました。
その結果、総売り上げ高が前年比で720%増加し、売り上げの75%は新規顧客によるものでした。
また、ブランド検索ボリュームを前月比で45%増加させることにも成功しています。
出典:MarshallのサポートによりKenmoreが720%成長 | Amazon Ads
ZOA Energy(ゾアエナジー)
エナジードリンクブランドのZOA Energyでは、スポンサープロダクト広告を活用していましたが、新規顧客の購入率は5.28%にとどまり、新規顧客の獲得に課題を感じていました。
ブランドの認知度を高めて新規顧客を獲得するため、既存顧客への広告配信を避けて新規顧客にリーチするような戦略を展開しました。
Amazon DSPに加えて、Prime Video広告やストリーミングTV広告などの動画広告プロダクトを活用したところ、新規顧客の購入率が45.6%向上し、自社サイトへの訪問数も32.9%増加する、という結果を出しました。
スポンサー広告とAmazon DSPの2つを組み合わせたキャンペーンでは購入数が29倍となり、さらに動画広告を加えた3つを併用した場合にはキャンペーンの売り上げが11倍になりました。
出典:FlywheelのサポートでZOA Energyは45%の売上拡大を達成 | Amazon Ads
Curél(キュレル)
日本のスキンケアブランドCurélでは、英国でのブランド認知度向上と売り上げ拡大を目指すため、Amazon広告を有効活用しました。
Amazon DSPを活用して、「スキンケア」の商品カテゴリに興味を示すユーザをターゲットとして広告を配信。また、商品に関心を示したものの購入には至らなかったユーザもターゲットとして、カスタマイズしたメッセージを作成することで効果的にアプローチしました。
さらにスポンサープロダクト広告とスポンサーブランド広告も併用して、Curélの商品を効果的にアピールし、結果としてプライムデー期間中の売り上げを、前年比で101%増加させることに成功しました。ブランド検索数も190%増加し、認知度向上を実現しています。
出典:TamboがCurélと行った取り組みにより2024年チャレンジャーアワードを受賞 | Amazon Ads
AmazonDSPを効果的に活用するためのポイント
AmazonDSPを使って効果的なキャンペーンを実施するためには、次の3つのポイントを意識することが大切です。
・他の広告プロダクトとの併用を検討する
・リアルタイムでの効果分析・改善を行う
・自社に合った代理店のサポートを受ける
それぞれ詳しく解説します。
他の広告プロダクトとの併用を検討する
Amazon広告には、AmazonDSP以外にもいくつかの広告プロダクトがあります。
AmazonDSPと他の広告プロダクトを組み合わせて運用することで、よりユーザに的確なアプローチができ、相乗効果が期待できます。
AmazonDSP以外の広告プロダクトの例は次のとおりです。
スポンサープロダクト広告
スポンサーブランド広告
スポンサーディスプレイ広告
スポンサーTV広告
Prime Video広告
Amazonスポンサー広告について、詳しくは次の記事で解説しています。
リアルタイムでの効果分析・改善を行う
AmazonDSPは配信スタートして放置するのではなく、レポート機能をフル活用して、成果をリアルタイムでモニタリングし、効果分析・改善を行うことが大切です。
そのためAmazonDSPを効果的に運用するには、分析・改善の作業を行うための人的リソースを確保する必要があります。
社内でのリソース確保が難しい場合には、代理店のサポートを受けるなど外部のリソースを活用しましょう。詳しくは次に解説します。
自社に合った代理店のサポートを受ける
「AmazonDSPの出稿方法」で解説したとおり、AmazonDSPを「セルフサービス」で出稿する場合は社内運用も可能ですが、効果的に運用するためには代理店など専門家のサポートを受けることをおすすめします。
代理店の利用を検討する際には、「自社に合った代理店かどうか」をよく見極めるようにしましょう。
例えば、自社と同業界での実績が豊富かどうか、似たケースでの支援事例がないか、など代理店のホームページをチェックしてみましょう。
担当者との相性なども確認して、様々な角度から代理店をチェックすることが大切です。
まとめ
AmazonDSPの強みは、Amazonの膨大な購買データを活用して、購買意欲の高いユーザに効率的にリーチできる点です。
Amazonに商品を出品していない企業でも導入でき、幅広い業種で活用できます。
AmazonDSPは自社ECサイトや実店舗の集客、ブランド認知向上など、様々な施策において有効なプラットフォームです。
ビジネス成長のための一手として、AmazonDSPを自社の広告戦略に組み込むことを検討してみましょう。